店頭用POP配布
店舗様向けに、本ページで紹介している農家の店頭用POPを配布しています。
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就職と同時に茨城県へ移り住み、鹿島神宮の参道にクラフトビールとピザのお店「パラダイスビア ファクトリー」と、ヴィーガンジェラートとドーナツの店「パラダイス ジェラート&ドーナツ」のオーナーを務める唐澤 秀(からさわ しゅう)さん。お店で出しているビールはもちろん、食材に使用している作物は全て自社農園産を使っています。年間の耕作面積は18ha(1haは1万㎡)。広大な面積の畑では、ビールの原料となる二条大麦をはじめ、小麦、大豆、その他多品目の野菜を、すべて自然栽培で育てています。中でも小麦と大豆は茨城県の平均生産量を超える収量を誇っています。
自然栽培で野菜はもとより、麦や大豆を育てることは、栽培方法のみならず、後工程や販売価格を考えても、多数の困難が待ち受けています。例えば麦の市場価格はお米の約半分。大豆はさらに半分です。加えて、トラクターやコンバイン、収穫後の乾燥機など、大規模な設備投資が必要となります。それでも栽培に踏み切ったのは、日本の「食の安全」を考えてのこと。国内で米、大豆、小麦を栽培することの意義を感じ、栽培を続けています。
また、麦や大豆の栽培は慣行栽培が一般的ですが、唐澤さんは環境持続性のある自然栽培での栽培にこだわっています。「農薬はまだしも、肥料を使わないで収量を確保できるの?」という疑問がわいてきますが、麦や大豆は世間で考えられているよりも自然栽培に向いているそう。理由としては、植物が育つにはチッ素・リン酸・カリの3つの養分が不可欠ですが、大豆などマメ科の根には根粒菌と呼ばれる菌が存在し、そのおかげで土中のチッ素量が増えるため、大豆を育てていれば自ずと畑の土も良くなっていくのだとか。
とはいえ、自然栽培の畑で、従来の農業の薄利多売のビジネスモデルの中で安定した収益を得ることは至難の技。そのため、唐澤さんは野菜をつくって売るだけではなく、自社で飲食店を構えるという形をとっています。そしてこのスタイルには、海外でのある“出会い” が関わっていました。
新卒で入社した茨城の農業法人に勤めていた時、休暇を使って世界で一番の評価を受けている農家を訪ねる旅をした唐澤さん。スペインのハモンセラーノをつくる農家、イタリアのパルミジャーノ、モッツァレラをつくる農家など、世界6カ国の「世界一の農家」を訪ねて気がついたのが、「世界一の農家は、端から端まですべてを自分たちの手でつくっている」ということでした。
例えばハモンセラーノの農家さんは、イベリコ豚の食べるどんぐりの森づくりから、育成、屠畜、解体、塩漬け、熟成、そして生ハムを使った料理をふるまうところまで、全てを自分たちの手で行っていました。もちろんビジネスとしては、全てを分業して行ったほうがずっと効率的です。しかし他人の手に委ねてしまうと、そこで農産物に対する「想い」が途切れてしまい、100%満足するものはできない。唐澤さんは、全てを一貫して自分たちの手で作ることで生まれる「想いの一貫性」こそが、最高の農産物をつくるための条件であることに気づきました。
さらに、そこで働く人たちの「最高のものを作っている」という誇りを持ち、生き生きと働く姿を見て、唐澤さんは「これを日本でやってみたい」と感じたのです。そして、まずは最高の素材を作るところから始めようと、独立就農を決めました。
独立したのは2008年。その数年前に“奇跡のりんご” で有名な木村秋則さんのご紹介で、埼玉の自然栽培の農家さんのもとを訪ねたことがあり、そこで食べた小松菜のあまりの美味しさに驚いたことがあったのです。そのため、唐澤さんは自然栽培以外で農産物をつくることは考えていませんでした。
自然栽培とは、種以外のものを畑に持ち込まない、肥料・堆肥・農薬を必要としない農法で、自然に任せた形で栽培すること。自然栽培で作った野菜は、肥料や堆肥の味ではなく、臭みのない「野菜本来の味」がする、と唐澤さんは言います。そして、野菜の美味しさを構成する要因の7割は「品種」だそう。例えば、ナスなら賀茂茄子が自然栽培が最も適した品種。唐澤さんの畑では、大豆なら茨城の在来種、大麦なら二条大麦、というように、自分たちの畑に最適な品種を選んで育てています。
そして、自分たちが育てたとびきり美味しい野菜を、自分たちが運営するレストランという場で提供する。これが、唐澤さんが仲間とつくった農園とレストラン、「鹿嶋パラダイス」です。
「パラダイスビア ファクトリー」のオープンは2012年。2016年にビールの醸造免許を取得し、醸造を始めました。ビールの原料のうち、98%を占める麦芽は、もちろん自社農園の自然栽培の大麦を使ったもの。さらに、仕込み水は鹿島神宮のご神水を使用しています。
「自然栽培の麦芽を全てのビールに使って、さらに100%自社農園産で賄っているのは、世界中探しても、おそらくうちくらいだと思いますよ」と唐澤さん。日本はもちろん、世界でもここでしか飲めない特別なビールです。ビールと合わせるのは、自然栽培の小麦と野菜から作ったピザが看板メニュー。もちろん自社農園産です。
また、ブルワリー近くの「パラダイスジェラート & ドーナツ」では、自然栽培の小麦を使ったドーナツ、同じく自然栽培の大豆から絞った豆乳を使ったヴィーガンジェラートを販売。ジェラートは自然栽培のお米から作った麹で醸した甘酒で、甘みと粘度を加えています。
独立就農から15年。自らの手で育てた農産物を、自らの手で料理や飲み物に変え、人々に美味しさをお届けしている唐澤さんがこれから目指すのは、世界の舞台。ビールはもちろん、味噌や醤油などの加工品も含め、少しずつ輸出先も広がりつつあり、アジアやヨーロッパでの展示会出展も予定しています。
端から端まで、全てを自分たちの手でつくる。「想いの一貫性」の結晶ともいえる「パラダイスビール」が、世界から注目を浴びる日も、そう遠くはないかもしれません。
代表者:唐澤 秀
住所: 茨城県鹿嶋市宮中1−5−1(店舗)
HP:https://paradisebeer.jp/
主な栽培品目:米、小麦、大麦、在来大豆、小豆、そば、じゃがいも、さつまいもなど