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飯山製茶
父子で作る、次の世代へとつながる有機茶の一滴

飯山製茶

父子で作る、次の世代へとつながる有機茶の一滴

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店頭用POP配布

店舗様向けに、本ページで紹介している農家の店頭用POPを配布しています。
下記「プリントする」ボタンをクリックするとブラウザの印刷ダイアログが表示されますので、ご自由にプリントアウトしてご活用ください。

茨城県八千代町。関東平野のひらけた大地に、冬の冷気を吸い込みながらゆっくり熟す茶畑があります。代々この土地で農業を営み、戦後まもなく本格的に茶栽培へと舵を切った飯山製茶。現在は4代目の飯山万寿夫さんと、5代目の翔平さんが中心となり、有機JAS認証を取得した稀少な「茨城の有機茶」を生み出しています。

有機への挑戦は、家と土地を守る使命から始まった

飯山製茶の歴史は、麦や小麦、たばこなどを作っていた江戸時代へとさかのぼります。やがて「さしま茶」の栽培が周囲に広まり、茶畑の拡大と機械化を経て、現在の基盤が築かれました。

4代目・万寿夫さんが有機に関心をもったのは大学時代。農学部で学んだ環境保全や有機農業の概念は、「家の土地を守れ」と言い続けた3代目の父の言葉と結びつき、「健康に良いものを作りたい」という思いを強くしました。その後は、農薬を通常の半分以下に抑えたり、有機肥料のみで栽培したりと、一人で取り組める工夫を積み重ねてきました。しかし、実際に完全無農薬へ踏み切るには、広大な茶園を一人で抱える状況では現実的ではありませんでした。

転機は、息子の翔平さんが就農したことでした。

「有機栽培に挑戦したいんだけど、一緒にやらないか」

万寿夫さんの提案に、翔平さんは迷いながらも応えます。二人で畑を管理し、有機JASに必要な膨大な記録を整え、周囲の農家にも理解を求めながら、認証取得までの6年間を積み上げました(認証を受ける権利が得られるのは、通常3年間)。

有機認証には、日々の記録や管理方法の説明など、見えない作業が山ほどあります。時間も手間もかかる道のりでしたが、土地を大切に守ってきた家族の思いが、有機栽培という形で実り始めました。

虫害との闘いが生んだ“風通し”という発見

有機栽培を始めて2年目まで、茶葉は虫食いだらけになりました。「このままでは倒産してしまうかもしれない」と感じるほどの被害。

「害虫に食べられてしまえば、栽培の努力はすべて無に帰してしまいます」

万寿夫さんの言葉から、当時の緊張感がうかがえます。

そんな中、知人の紹介で埼玉の茶園を訪ねたことで、一つのヒントが見えてきました。畝間(うねま)が広く、草が生えたままの畑だったのです。

「草があっても、風が通れば害虫は減るよ」

その言葉に、万寿夫さんはハッとしました。

雑草を避けたくて畝間を狭くしていた従来のやり方から一転し、茶と茶の間隔を広げ、風を通す。すると益虫であるクモやカマキリ、蜂類が増え、害虫は年を追うごとに減少。草は一定量残るものの、それでも畑は健全に保たれました。

草を完全に取り除かなくてもいい。虫たちの力を借りながらお茶を育てていけばいい。畑と向き合い続けた先にたどり着いた答えでした。

この経験がだんだんと広まり、現在では他県の農家から「認証とは何か」「どう進めればいいか」という相談が舞い込むようになりました。経験を惜しみなく共有し、同じ志を持つ仲間を増やすまでになっています。

有機の価値は、お客さまの「おいしい」の一言で報われる

有機栽培は手間がかかり、楽な作業ではありません。それでも飯山さん親子が続ける理由は、実際にお茶を飲んでくれるお客さまの声にあります。

「こういう味を求めていた」

「たくさん買って、友人にも配っているんだ」

そんな言葉をもらう瞬間、親子は自然と笑顔になります。

特に好評なのが、冬の寒さを越した春の番茶を焙じた“春番茶ほうじ茶”。茨城の寒さに耐えるため、葉は糖分を蓄えます。その自然由来の甘みが焙煎で引き出され、優しい一杯になるのです。

「冬の寒さを越した春の番茶で仕上げるほうじ茶は、他の産地ではほとんど作られていません」

寒冷地ならではの特別な味わい。

また、地元の高校生への「お茶の授業」や工場見学の受け入れなど、地域とのつながりも深まっています。お茶を淹れる楽しさを若い世代に伝えることは、文化の継承にもつながる取り組みです。

道の駅では「茨城の有機茶は飯山さんしかないから」と指名して買いに来る方も。一つひとつの出会いが、有機栽培の励みになっています。

海外への期待と、まずは足元を固めるという姿勢

近年、海外からの問い合わせが増えてきました。特にヨーロッパでは有機が当たり前になりつつあり、「農薬を使わないお茶」というだけで強い関心を持ってもらえます。カナダのバイヤーから直接連絡が来たこともあり、世界のマーケットに触れる機会が広がっています。

とはいえ、飯山製茶が目指すのは、量を追う姿ではありません。

「味で勝負したい」「丁寧に育てられる範囲で広げていきたい」

二人の口から出てくる言葉は、いつも慎重で、地に足がついています。

さらに、荒れてしまいそうな茶畑を引き受けて有機へ転換することも、地域にとっては大切な意味を持ちます。後継者不足が進む中、茶園を未来へ残すこと自体が、地域の支えにつながるからです。翔平さんが「安心安全なお茶づくりで人々の健康に貢献したい」と語る背景には、地域全体を見渡す視点があります。

ゆっくりでも確実に歩みを進めること。人にも環境にもやさしいお茶を増やしていくこと。

その積み重ねの先に、有機がもっと自然な選択肢になる社会がきっと訪れます。

有機栽培への挑戦は、飯山製茶だけの挑戦ではありませんが、有機の畑が地域に増えることは環境保全にもつながり、地域への貢献にもつながっていくのだと思います。

生産者情報

飯山製茶

代表取締役:飯山 万寿夫

住所:〒300-3565 茨城県結城郡八千代町松本3

URL:https://iiyamaseicha.thebase.in/

主な栽培品目:お茶